神戸地方裁判所 昭和53年(ワ)101号 判決 1983年2月28日
原告
益井正一
ほか三名
被告
有限会社新九州運輸
ほか一名
主文
1 被告らは各自
(1) 原告益井正一に対し、金二一四万五、四八六円およびうち金一九四万五、四八六円に対する昭和五〇年二月二日から
(2) 原告益井澄江に対し、金二三〇万七、二六八円およびうち金二一〇万七、二六八円に対する前同日から
(3) 原告小林シマに対し、金一五〇万〇、〇八一円およびうち金一三七万〇、〇八一円に対する前同日から
(4) 原告竹田よし子に対し、金二五〇万四、七九八円およびうち金二三〇万四、七九八円に対する前同日から
各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は四分し、その三が原告らの連帯負担とし、その余が被告らの連帯負担とする。
4 この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自
(1) 原告益井正一に対し、金七九一万四、九八六円およびうち金七二一万四、九八六円に対する昭和五〇年二月二日から
(2) 原告益井澄江に対し、金四九七万六、四〇五円およびうち金四五七万六、四〇五円に対する前同日から
(3) 原告小林シマに対し、金二七五万一、五〇〇円およびうち金二五〇万一、五〇〇円に対する前同日から
(4) 原告竹田よし子に対し、金四三六万三、一六〇円およびうち金四〇一万三、一六〇円に対する前同日から
各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 交通事故の発生
(1) 日時 昭和五〇年二月二日午前六時四五分ころ
(2) 場所 兵庫県相生市池の内字家の下五六六の一先国道二号線
(3) 加害車両 大型貨物自動車(冷凍車)熊八八か一一三号
保有者 被告有限会社新九州運輸(以下、被告会社という。)
運転者 被告満永和行(被告満永という。)
(4) 被害車両 普通乗用自動車(自家用車)神戸五六す四七八九号
運転者 原告益井正一(以下、原告正一という。)
同乗者 原告益井澄江(以下、原告澄江という。)
原告小林シマ(以下、原告シマという。)
原告竹田よし子(以下、原告よし子という。)
(5) 事故態様 加害車両が交差点手前で信号に従つて停車中の被害車両に追突した。
(6) 傷害の部位程度
(A) 原告正一 頸部損傷、左前腕打撲等
(B) 原告澄江 頸部損傷、右肩右肘頭部打撲挫創等
(C) 原告シマ 頸部捻挫、右橈骨末端骨折等
(D) 原告よし子 頸部捻挫、顔面左肩打撲等
(7) 治療経過
(A) 原告正一 昭和五〇年二月三日から昭和五二年一一月一〇日まで「うすき病院」に通院(実通院日数三八七日間)
昭和五二年一一月一〇日症状固定(一二級一二号)
(B) 原告澄江 昭和五〇年二月三日から同年三月一三日まで「うすき病院」に入院(三九日間)同年三月一四日から昭和五一年六月八日まで同病院に通院(実治療日数一八七日間)昭和五一年六月八日症状固定(一二級一二号)
(C) 原告シマ 昭和五〇年二月三日「うすき病院」に通院、同年五月二六日から昭和五一年五月二八日まで同病院に通院(実通院日数一四二日間)昭和五〇年二月四日から同年五月二五日まで同病院に入院(一一一日間)
昭和五一年五月二八日症状固定(一二級一二号)
(D) 原告よし子 昭和五〇年二月三日から同月一七日まで「うすき病院」に通院、同年四月二一日から同年一〇月二二日まで同病院に通院(実通院日数一三一日間)
同年六月一八日から同年四月二〇日まで同病院に入院(六二日間)
昭和五〇年一〇月二二日症状固定(一二級一二号)
2 責任原因
(1) 被告満永は、加害車両を仮眠状態で前方注視を欠いたまま運転し、交差点の手前で停止信号に従つて停車中の被害車両に気づかず、追突したものであるから、民法七〇九条所定の責任がある。
(2) 被告会社は、加害車両を保有し、その営業のため被告満永をして加害車両を運行させていたのであるから、民法七一五条、自賠法三条所定の責任がある。
3 損害
(A) 原告正一 金七九一万四、九八六円
(1) 損害額 金八七三万七、五〇三円
(一) 物損
ひざかけ毛布 金三、五〇〇円
ポツト 金四、六〇〇円
かさ 金二、五〇〇円
(二) 事故処理費用 金一万五、〇〇〇円
(三) 自己負担の病院治療費、検査料
中川眼科 金二万〇、八五五円
労災病院 金一万五、四七二円
うすき病院 金七、五五五円
江原病院 金三二〇円
(四) 柔道整復費用
南条施術所 金七、〇〇〇円
御影治療所 金三、〇〇〇円
(五) 眼鏡代金 金三万四、〇〇〇円
(六) 休業回避に要した費用 金一五〇万四、五〇〇円
原告正一は、クリーニング業を営業していたが、本件事故が発生した昭和五〇年二月二日から症状が固定した昭和五二年一一月一〇日まで、休業を回避するため、クリーニング職人樫原松王を雇傭し、同人に支払つた金員は合計金一五〇万四、五〇〇円である。
(七) うすき病院通院交通費 金二五万五、四二〇円
うすき病院の実通院日数三八七日間の通院費として一回金六六〇円(タクシー往復運賃)で計算した。
(八) 逸失利益 金二二六万三、七八一円
原告正一は、本件事故当時、四九歳(大正一五年四月二五日生)であるから、昭和四九年度賃金センサスの四九歳の男子労働者の平均年間給与額金二五九万三七〇〇円を基礎として、労働能力喪失率を二〇パーセント、五年間継続するものとして原告正一の逸失利益を算出すると金二二六万三、七八一円〔2,593,700円×0.2×4.364(ホフマン係数)=2,263,781円〕となる。
(九) 慰藉料 金四六〇万円
(2) 損益相殺 金一五二万二、五一七円
(一) 昭和五〇年一〇月二〇日支払分 金二一万九、〇五七円
(二) 昭和五一年一二月二八日支払分 金二六万三、四六〇円
(三) 自賠責保険よりの一括支払分 金一〇四万円
(3) 弁護士費用 金七〇万円
(B) 原告澄江 金四九七万六、四〇五円
(1) 損害額 金六三五万四、二二七円
(一) 自己負担の病院治療費・検査料
中川眼科 金三万九、〇二〇円
うすき病院 金二、八一五円
江原病院 金五、三五六円
(二) うすき病院入院付添費 金一二万三、〇四二円
(三) 同病院入院雑費 金二万三、四〇〇円
(四) 眼鏡代金 金二万三、八〇〇円
(五) うすき病院通院交通費 金一二万三、四二〇円
実通院日数一八七日間の通院交通費として一回金六六〇円(タクシー往復運賃)で計算した。
(六) 再診料 金二万七、九八〇円
(七) 柔道整復費用
南条施術所 金七、〇〇〇円
御影治療所 金九、五〇〇円
(八) 自宅家政婦代(家事労働)金一八四万〇、五〇〇円
本件事故が発生した昭和五〇年二月二日から症状の固定した昭和五一年六月八日までのうち四〇九日分について、一日金四、五〇〇円の割合で家政婦村山瞳に支払つた。
(九) 休業損害 金八〇万八、七六七円
原告澄江は、原告正一の経営するクリーニング店の従業員として稼働して、昭和四九年度の年間収入は金六〇万円であつたから、入通院期間中の四九二日間の休業損害は金八〇万八、七六七円(60万円÷365×492=808,767円)となる。
(一〇) 逸失利益 金一一一万九、六二七円
原告澄江は、本件事故当時、四七歳(昭和二年九月一日生)であるから、昭和四九年度賃金センサスの四七歳の女子労働者の平均年間給与額金一二八万二、八〇〇円の基礎として、労働能力喪失率を二〇パーセント、五年間継続するものとして原告澄江の逸失利益を算出すると金一一一万九、六二七円〔1,282,800円×0.2×4.364(ホフマン係数)=1,119,627円〕となる。
(一一) 慰藉料 金二二〇万円
(2) 損益相殺 金一七七万七、八二二円
(一) 昭和五〇年一〇月二〇日支払分 金二九万八、五四二円
(二) 昭和五一年一二月二八日支払分 金四三万九、二八〇円
(三) 自賠責保険よりの一括支払分 金一〇四万円
(3) 弁護士費用 金四〇万円
(C) 原告シマ 金二七五万一、五〇〇円
(1) 損害額 金四四一万七、三八六円
(一) 物損
ポツト 金二、五〇〇円
かさ 金二、九〇〇円
(二) 自己負担の病院治療費
萩原医院 金八万九、三〇〇円
(三) うすき病院入院付添費 金一四万二、四四六円
(四) うすき病院入院雑費 金六万六、六〇〇円
入院期間一一一日間について一日当り金六〇〇円で計算した。
(五) 自宅家政婦代(家事労働)金一七〇万五、五〇〇円
原告シマは、本件事故の発生した昭和五〇年二月二日から症状の固定した昭和五一年五月二八日までの三七九日間、家事労働に従事することができず、一日当り金四、五〇〇円で家政婦を雇傭しなければならなかつたから合計金一七〇万五、五〇〇円の家政婦代を要した。
(六) 眼鏡代金 金三万三、〇〇〇円
(七) うすき病院通院交通費 金九万四、六四〇円
実通院日数一四二日間の通院交通費として一回金六六〇円(タクシー往復運賃)で計算した。
(八) 再診料 金三万〇、五〇〇円
(九) 慰藉料 金二二五万円
(2) 損益相殺 金一九一万五、八八六円
(一) 昭和五〇年一〇月二〇日支払分 金七九万一、二四六円
(二) 昭和五一年一二月二八日支払分 金九万四、六四〇円
(三) 自賠責保険よりの一括支払分 金一〇三万円
(3) 弁護士費用 金二五万円
(D) 原告よし子 金四三六万三、一六四円
(1) 損害額 金四一四万三、一一二円
(一) うすき病院入院付添費 金一二万三、〇四二円
(二) うすき病院入院雑費 金三万七、二〇〇円
入院期間六二日について一日当り金六〇〇円で計算した。
(三) うすき病院通院交通費 金八万六、四六〇円
実通院日数一三一日間につき、一回往復金六六〇円(タクシー)で計算した。
(四) 再診料 金二万九、一〇〇円
(五) 休業損害 金四三万〇、六八五円
原告よし子は、本件事故当時、呉服仕立業をして月平均金五万円の収入を得ていたから、入通院期間二六二日の休業損害は金四三〇万〇、六八五円(50,000円×12÷365×262=430,685円)となる。
(六) 逸失利益 金一〇三万六、六二五円
原告よし子は、本件事故当時二五歳(昭和二四年三月一一日生)であるから、昭和四九年度賃金センサスの二五歳の女子労働者の平均年間給与額金一一八万七七〇〇円を基礎として、労働能力喪失率を二〇パーセント、五年間継続するものとして原告よし子の逸失利益を算出すると金一〇三万六、六二五円〔1,187,700円×0.2×4.364(ホフマン係数)=1,036,625円〕となる。
(七) 慰藉料 金二四〇万円
(2) 損益相殺 金一二万九、九五二円
昭和五〇年一〇月二〇日支払分 金一二万九、九五二円
(3) 弁護士費用 金三五万円
4 結論
よつて、被告らに対し、各自
(1) 原告正一は金七九一万四、九八六円およびうち金七二一万四、九八六円に対する昭和五〇年二月二日から
(2) 原告澄江は金四九七万六、四〇五円およびうち金四五七万六、四〇五円に対する前同日から
(3) 原告シマは金二七五万一、五〇〇円およびうち金二五〇万一、五〇〇円に対する前同日から
(4) 原告よし子は金四三六万三、一六〇円およびうち金四〇一万三、一六〇円に対する前同日から
各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1(1)ないし(5)は認めるが、(6)、(7)は争う。
2 同2(1)は争い、(2)は認める。
3 同3(A)(1)のうち(三)は認めるが、その余は争う。(2)は認め、(3)は争う。
(B)(1)のうち(一)、(六)は認めるが、その余は争う。(2)は認め、(3)は争う。
(C)(1)のうち(二)は認めるが、その余は争う。(2)は認め、(3)は争う。
(D)(1)のうち(四)は認め、その余は争う。(2)は認め、(3)は争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件交通事故の発生について
請求原因1(1)ないし(5)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の一、二、第二ないし第四号証の各一ないし三によれば、(6)、(7)を認めることができる。そして、右各甲号証に証人薄木正敏の証言によれば、原告正一、同澄江、同シマ、同よし子の主たる後遺症状の内容は、いずれも頭痛、頭重感、めまい、嘔気などであつて、いわゆる鞭打損傷に特有な症状であり、原告澄江が昭和五一年六月八日、原告シマが同年五月二八日、原告よし子が昭和五〇年一〇月二二日にそれぞれ症状固定しているのにかかわらず、原告正一のみ、昭和五二年一一月一〇日に至つて、ようやく症状固定したのは、原告正一が、受傷当時、その経営していたクリーニング業の休業を回避するために、やむえず、主治医の勧告にもかかわらず、入院治療を拒否したことにあるのであつて、これと原告正一の心因的要素も加わつたものであると認められる。
二 責任原因について
(1) 成立に争いのない甲第三二号証の一ないし二五によれば、被告満永は、加害車両を運転して本件事故現場を東から西に向つて先行する被害車両に追従して時速約五〇キロメートルで進行していたが、当時、降雨のため路面が滑走しやすい状態であつたのであるから、先行する被害車両の動静に十分注視して同車の急停止に応じた措置をとるべき注意義務があるのに、これを怠り、同車の減速に気づかないまま同一速度で進行した過失により、信号待ちのため一時停止した被害車両に自車前部を衝突させ、その衝激により、同車をその前方に停車中の車両に衝突させたうえ、さらに道路左側の道路標識鉄柱に衝突させたものであることが認められる。したがつて被告満永は民法七〇九条所定の責任がある。
(2) 被告会社が民法七一五条、自賠法三条所定の責任を負うものであることは当事者間に争いがない。
三 損害について
(A) 原告正一の損害 金二一四万五、四八六円
(1) 損害額 金三四六万八、〇〇三円
(一) 物損について
原告正一本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第五号証の一ないし三によれば、原告正一が、本件事故当時、被害車両内に置いていた「ひざかけ毛布」「ポツト」「かさ」が本件事故により使えなくなつたとして、本件事故後、「ひざかけ毛布」を金三、五〇〇円、「ポツト」を金四、六〇〇円、「かさ」を金二、五〇〇円で購入したことが認められるが、本件事故により使えなくなつたとする右「ひざかけ毛布」などが、どのような状態になつたのか、その価格が事故後購入した価格と同一なのかどうか証拠上明らかでない以上、損害として計上することはできない。
(二) 事故処理費用について
原告正一本人尋問の結果によれば、原告正一が、本件事故当日、事故現場から電話で河原孝昌という人物に連絡して事故現場まで来てもらつたが、同人に対する謝礼とかガソリン代、食事代、電話代とかに金一万五、〇〇〇円を下らない支出をしたというのであるけれども、これだけでは、本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
(三) 自己負担の病院治療費、検査料、金四万四、二〇二円
当事者間に争いがない。
(四) 柔道整復費用について
原告正一本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第八、九号証によれば、原告正一が自己の判断で南条施術所と御影治療所に指圧などの治療を受け、前者に金七、〇〇〇円、後者に金三、〇〇〇円を支出したことが認められるけれども、当時、原告正一は「うすき病院」に通院治療を受けていたのであるから、本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害として認めることはできない。
(五) 眼鏡代金について
前記甲第一号証の一、二、証人薄木正敏の証言によれば、原告正一の後遺症状として眼精疲労が所見されるが、眼鏡を必要とするかどうか明らかでなく、また、原告正一本人尋問の結果によれば、眼底出血のため視力が低下したので眼鏡を購入したというのであるが、眼底出血と本件事故との因果関係は不明であるのみならず、眼鏡購入代金として原告正一が金三万四、〇〇〇円の支出をしたことを認めるに足りる証拠もない。
(六) 休業回避に要した費用 金三九万五、三三三円
証人樫原松王の証言により真正に成立したと認める甲第一八号証の一ないし三〇、証人樫原松王の証言および原告正一本人尋問の結果によれば、原告正人は、本件事故当時クリーニング業を経営し、外交、ドライクリーニングと水洗の選別、プレスアイロンがけ、帳簿の作成などに従事し、臨時に月平均五、六回クリーニング職人である樫原松王を雇傭していたが、本件事故後も取り引き先確保のために休業を回避して営業を継続し、通院しながら右業務に従事していたけれども、プレスアイロンがけなどが十分できないためもあつて、本件事故後である昭和五〇年六月から症状の固定した昭和五二年一一月一〇日まで、右の樫原松王を、一か月に多いときで九回、すくないときで一回ないし四回、臨時に雇傭し、業界の相場により、一回あたり昭和五一年六月分までは金六、五〇〇円、同年七月分からは金七、五〇〇円を支払い、合計金一一八万六、〇〇〇円を支払つたことが認められるから、右金一一八万六、〇〇〇円のうち、控え目にみて、三分の一に相当する金三九万五、三三三円は、原告正一の受傷の部位、程度、後遺症状の内容、実通院日数三八七日間などに照らし、本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害額と是認し得る。
(七) うすき病院通院交通費 金六万九、六六〇円
原告正一の受傷の部位、程度、後遺症状の内容と「うすき病院」の所在地に照らせば、原告正一の通院交通には、タクシーによる必要はなく、バスにより十分通院可能と認められるところ、原告正一本人尋問の結果によれば、「うすき病院」までのバス運賃は往復金一八〇円であることが認められるから、実通院日数三八七日間の通院交通費は金六万九、六六〇円(180円×387日=69,660円)となる。
(八) 逸失利益 金四五万八、八〇八円
原告正一本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第二三号証、成立に争いのない甲第三六号証の一、二、証人前田昭介の証言および原告正一本人尋問の結果によれば、原告正一は、本件事故当時、常傭のクリーニング職人である荒木某と妻である原告澄江のほか、臨時のクリーニング職人として樫原松王を雇傭してクリーニング業を経営し、月平均金五、六〇万円の売上から妻澄江の給与を除く人件費、光熱費、家賃などの経費を控除して月平均金一五、六万円から金二〇万円の収入を得て生計を維持していたが、昭和四九年度の所得税青色申告に際しては、妻澄江に対する専従者給与として金六〇万円(月額金五万円)を計上し、現実にも、これを原告澄江に給付していたというのであるから、本件事故当時の原告正一の現実収入は月平均金一〇万円から金一五万円であり、原告澄江の現実収入は月平均金五万円である。そこで原告正一の控え目な現実収入月平均金一〇万円を基礎として、その逸失利益を算出すべきところ、原告正一の後遺症の内容と程度に照らせば、その労働能力喪失率は一四パーセント、その継続期間は三年とするのが相当であるから、これにより原告正一の逸失利益を算すると金四五万八、八〇八円となる〔100,000円×12×0.14×2.731(新ホフマン係数)=458,808円〕。
(九) 慰藉料 金二五〇万円
原告正一の傷害の部位程度通院期間、後遺症の内容、程度その他諸般の事情に照らした慰藉料額は金二五〇万円をもつて相当とする。
(2) 損益相殺 金一五二万二、五一七円
当事者間に争いがない。
(3) 弁護士費用 金二〇万円
本件訴訟の審理の経過、難易度、認容額、その他諸般の事情に照らして相当因果関係の範囲にする損害としての弁護士費用は金二〇万円をもつて相当とする。
(B) 原告澄江の損害 金二三〇万七、二六八円
(1) 損害額 金三八八万五、〇九〇円
(一) 自己負担の病院治療費、検査料 金四万七、一九一円
当事者間に争いがない。
(二) うすき病院入院付添費について
前記甲第二号証の一ないし三、証人薄木正敏の証言によつても、原告澄江の「うすき病院」に入院期間中、付添看護を要したものとは認められないし、また、原告澄江の傷害の部位、程度、後遺症の内容に照らしても、入院中の付添看護を要しないというべきである。
(三) うすき病院入院雑費 金一万九、五〇〇円
入院期間三九日間について、一日当り金五〇〇円の入院雑費をもつて相当とするから、合計金一万九、五〇〇円となる。
(四) 眼鏡代金について
前記甲第二号証の一ないし三、証人薄木正敏の証言によれば、原告澄江の後遺症状として眼精疲労が所見されるが、眼鏡を必要とするかどうか明らかでなく、原告澄江が眼鏡を代金二万三、八〇〇円で購入したかどうかも証拠上明らかでない。
(五) うすき病院通院交通費 三万三、六六〇円
原告澄江の受傷の部位、程度、後遺症状の内容に照らし、前記(A)(1)(七)と同一の理由によりバス運賃往復金一八〇円で実通院日数一八七日間の通院交通費を計算すると金三万三、六六〇円となる。
(六) 再診料 金二万七、九八〇円
当事者間に争いがない。
(七) 柔道整復費用について
前記(A)(1)(四)と同一の理由により損害として是認することはできない。
(八) 自宅家政婦代(家事労働)について
原告正一本人尋問の結果によれば、原告澄江(昭和二年九月一日生)は主婦として家事労働に従事するかたわら、原告正一の妻として家業のクリーニング業についても、アイロンプレス、ネーム入れ、請求書の作成などの補助的作業にも従事し、前記(A)(1)(八)のとおり、月額金五万円の専従者給与を受けていたものであるが、家事労働の財産的評価は賃金センサスの女子労働者の平均賃金をもつて相当とし、もし現実収入がこれより下回るときは、家事労働の一部が現実収入に転化したものと解するのが相当であつて、昭和五〇年度賃金センサスの企業規模計、学歴計女子労働者の「四五歳~四九歳」の年間給与額は金一五五万四、四〇〇円(月額金一二万九、五三三円)であるから、原告澄江の休業損害は右の女子労働者の平均賃金を基礎として算定するべく、原告澄江の右による休業損害を計上する以上、休業による家政婦代は、その支出額のいかんにかかわりなく、これを損害として計上すべきではない。
(九) 休業損害 金九六万二、四五〇円
原告澄江の受傷の部位、程度、後遺症状の内容に照らすと、原告澄江の休業損害は、症状の固定した昭和五一年六月一日までの全期間を通じて認めるのは相当でなく、入院日数三九日間と実通院日数一八七日間(合計二二六日間)に限るべきであるから、これにより前記年間平均給与額金一五五万四、四〇〇円を基礎として休業損害を算定すると金九六万二、四五〇円となる
(1,554,400円÷365日×226日=962,450円)。
(一〇) 逸失利益 金五九万四、三〇九円
原告澄江の後遺症の内容と程度に照らせば、その労働能力喪失率は一四パーセント、その継続期間は三年とするのが相当であるから、これにより前記年間平均給与額金一五五万四、四〇〇円を基礎として原告澄江の逸失利益を算出すると金五九万四、三〇九円〔1,554,400円×0.14×2.731(新ホフマン係数)=594,309円〕となる。
(一一) 慰藉料 金二二〇万円
前記(A)(1)(九)と同様の事情を参酌して原告澄江の慰藉料額は金二二〇万円をもつて相当とする。
(2) 損益相殺 金一七七万七、八二二円
当事者間に争いがない。
(3) 弁護士費用 金二〇万円
前記(A)(3)と同様の事由を参酌して二〇万円をもつて相当と認める。
(C) 原告シマの損害 金一五〇万〇、〇八一円
(1) 損害額 金三二八万五、九六七円
(一) 物損について
原告正一本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認める甲第二五号証の一、二によれば、原告シマが、本件事故当時、被害車両内に置いていた「かさ」と「ポツト」が本件事故により使えなくなつたとして、本件事故後、「かさ」を金二、九〇〇円、「ポツト」を金二、五〇〇円で購入したことが認められるが、前記(A)(1)(一)と同一の理由により損害として計上できない。
(二) 自己負担の病院治療費 金八万九、三〇〇円
当事者間に争いがない。
(三) うすき病院入院付添費について
前記(B)(1)(二)と同様の理由により入院中の付添看護を要しないというべきである。
(四) うすき病院入院雑費 金五万五、五〇〇円
入院期間一一一日間について、一日金五〇〇円の入院雑費をもつて相当とするから、合計金五万五、五〇〇円である。
(五) 自宅家政婦代(家事労働)について
証人川崎道子の証言、原告正一本人尋問の結果によれば、原告シマ(明治三四年一月一一日生)は、本件事故当時、長男小林一夫、養女(孫)である原告よし子と同居し、単独で家事労働に従事していたことが認められるところ、昭和五〇度賃金センサスの企業規模計、学歴計女子労働者の「六〇歳~」の年間給与額は金一二〇万四、八〇〇円であるから、原告シマの家事労働の財産的評価はこれによるべく、これにより原告シマの休業損害を計上する以上、休業による家政婦代は、その支出額のいかんにかかわりなく、これを損害として計上すべきでないことは、前記(B)(1)(八)で述べたとおりである。
(六) 休業損害 金八三万五、一〇七円
原告シマの休業損害は、前記(B)(1)(九)と同様の理由により、入院日数一一一日間と実通院日数一四二日間(合計二五三日間)に限るべきであるから、これにより前記年間平均給与額金一二〇万四、八〇〇円を基礎として原告シマの休業損害を算定すると金八三万五、一〇七円(1,204,800円÷365日×253日=835,107円)となる。
(七) 眼鏡代金について
損害として是認するに足りる証拠はない。
(八) うすき病院通院交通費 金二万五、五六〇円
前記(A)(1)(七)、(B)(1)(五)と同一の理由により、バス運賃往復金一八〇円で実通院日数一四二日間の通院交通費は金二万五、五六〇円である。
(九) 再診料 金三万〇、五〇〇円
原告正一本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第二八号証および弁論の全趣旨により、原告シマが「うすき病院」に支払つた再診料金三万〇、五〇〇円を損害として計上するのが相当である。
(一〇) 慰藉料 金二二五万円
前記(A)(1)(九)と同様の事情を参酌して原告シマの慰藉料額は金二二五万円をもつて相当とする。
(2) 損益相殺 金一九一万五、八八六円
当事者間に争いがない。
(3) 弁護士費用 金一三万円
前記(A)(3)と同様の事由を参酌して金一三万円をもつて相当と認める。
(D) 原告よし子の損害 金二五〇万四、七九八円
(1) 損害額 金二四三万四、七五〇円
(一) うすき病院入院付添費について
前記(B)(1)(二)と同様の理由により入院中の付添看護を要しないというべきである。
(二) うすき病院入院雑費 金三万一、〇〇〇円
入院期間六二日間について、一日金五〇〇円の入院雑費をもつて相当とするから、合計金三万一、〇〇〇円である。
(三) うすき病院通院交通費 金二万三、五八〇円
前記(A)(1)(七)、(B)(1)(五)と同一の理由により、バス運賃往復金一八〇円で実通院日数一三一日間の通院交通費は金二万三、五八〇円である。
(四) 再診料 金二万九、一〇〇円
当事者間に争いがない。
(五) 休業損害 金三二万一、六六六円
原告正一本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第三〇号証、証人川崎道子の証言および原告正一本人尋問の結果によれば、原告よし子は、本件事故当時、原告シマの養女として同原告の許に同居し、呉服の仕立業をして月平均金五万円を下らない収入を得ていたことが認められるところ、原告よし子の休業損害は、前記(B)(1)(九)と同様の理由により、入院日数六二日間と実通院日数一三一日間(合計一九三日間)に限るべきであるから、これにより右月平均金五万円の現実収入を基礎として原告よし子の休業損害を算出すると金三二万一、六六六円(50,000円÷30日×193日=321,666円)となる。
(六) 逸失利益 金二二万九、四〇四円
原告よし子の後遺症の内容と程度に照らせば、その労働能力喪失率は一四パーセント、その継続期間は三年とするのが相当であるから、原告よし子の前記月平均金五万円の現実収入を基礎として原告よし子の逸失利益を算出すると金二二万九、四〇四円〔50,000円×12月×0.14×2.731(ホフマン係数)=229,404円〕となる。
原告よし子の現実収入が認められる以上、たとえ現実収入が賃金センサスの女子労働者の平均賃金より下回ることがあつても、逸失利益は現実収入によつて算定すべきものであつて、賃金センサスの平均賃金によるべきではない。
(七) 慰藉料 金一八〇万円
前記(A)(1)(九)と同様の事情を参酌して原告よし子の慰藉料額は金一八〇万円をもつて相当とする。
(2) 損益相殺 金一二万九、九五二円
当事者間に争いがない。
(3) 弁護士費用 金二〇万円
前記(A)(3)と同様の事由を参酌して金二〇万円をもつて相当とする。
四 むすび
よつて、原告らの本訴各請求は、被告らに対し、各自
(1) 原告正一が金二一四万五、四八六円およびうち金一九四万五、四八六円に対する昭和五〇年二月二日から
(2) 原告澄江が金二三〇万七、二六八円およびうち金二一〇万七、二六八円に対する前同日から
(3) 原告シマが金一五〇万〇、〇八一円およびうち金一三七万〇、〇八一円に対する前同日から
(4) 原告よし子が金二五〇万四、七九八円およびうち金二三〇万四、七九八円に対する前同日から
各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容するが、その余は理由がないから棄却することとし、民訴法八九条、九二条、九三条、同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 阪井昱朗)